熱中症予防のお話

~保育所内での熱中症による健康被害を防ぎましょう~

 「熱中症」とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を言います。  

 屋外だけでなく、室内で何もしていない時でも発症し、救急搬送されたり、場合によっては死亡することもあります。  

 

 令和4年度の職場における熱中症の発生状況をみると、30人が亡くなり、827人が4日以上仕事を休んでいます。このため、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署は、夏季(5月~9月)を中心に、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を展開し、職場での熱中症予防に取り組むように呼び掛けています。

 

 日本の気象動向では、年々気温が上昇しており、熱中症になる危険性は高くなっています。 これから更に暑くなる時期に備え、熱中症に関する正しい知識を身に着け、体調の変化に気をつけるとともに、周囲にも気を配り、熱中症による健康被害を防ぎましょう。   

 

 人は、暑い時には皮膚表面の血管を拡張し、皮膚の血流を増加させることで、体の中の熱を放散して、体温調節をしています。

 血管の拡張だけで体温調節が出来ない時には、汗をかくことで体の熱を放散します。  汗は、血液を原材料にして、汗腺でつくられています。汗には、水やナトリウム、塩素等が含まれており、ナトリウムの濃度は、血液の4分の1~8分の1と言われています。

 人は、大切な水分やミネラルを失いながら、体温調節を行っています。

 

 熱中症は、「気温が高くなり始める時期」「湿度の高い日が続く梅雨の時期」など、まだ体が暑さに慣れていない5月~6月頃から起こりやすくなります。

 

 暑さに慣れていないと、体は発汗する量が少なく、体温を上手く下げることができません。そのために、急に気温が高くなった日や休み明けの勤務初日に、熱中症は起こりやすくなると言われています。    

 

 日本救急医学会の「熱中症診断ガイドライン2015」によりますと、熱中症の診断は症状の重さにより、3段階(分類Ⅰ度~Ⅲ度)に分けられます。

・分類Ⅰ度(軽 症):めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直

・分類Ⅱ度(中等度):頭痛、嘔吐、倦怠感、集中力の低下、判断力の低下

・分類Ⅲ度(重 傷):意識障害、けいれん発作、おかしな言動や行動、過呼吸、異常な高 体温(40℃以上)、汗が出ない

 

 意識がはっきりしている時は、涼しいところに避難し、脱衣や冷却をしてください。

 水分を自分で摂取できる時は、水分・塩分を摂取させてください。

 これらの救急措置をしても、意識がない、呼びかけに応じない、返事がおかしい、全身 が痛い等、状態が悪化する場合は、ためらうことなく、救急車を呼びましょう。

 

 重症の場合は、迅速な医療措置が生死を左右すると言われています。

 熱中症発症から、20分以内に体温を下げることができると、確実な救命ができます。  

 

 「熱中症が起こりやすい条件」は、以下の3つになります。

・「環境面」:気温が高い、湿度が高い、風が弱い、日差しが強い、閉め切った屋内、エアコンが無い、エアコンを使わない環境、梅雨の合間の晴れ

・「体に関すること」:肥満の人、高齢者、持病のある人(糖尿病・高血圧・心臓病・精神等)、 暑さに慣れていない

・「行動面」:激しい運動や作業、慣れない運動や作業、長時間の作業、休憩時間が短い、水 分補給がしにくい、服装の通気性や水分の透過性が悪い、安全衛生保護具の着用が必要な 作業などがあげられます。  

 これらの条件が重なると、熱中症のリスクは高くなると言われていますので、十分に気をつけてください。  

 

 熱中症の予防法には、まずは「体調管理」が重要です。

「十分な睡眠をとること」、「食事をきちんと摂ること」、「暑さに体を慣らすこと(暑熱純化)」などがあげられます。  

・「十分な睡眠をとること」で、効果的に体温を下げて、適切な体温を保ちやすくなります。

 眠っている間に、細胞が修復されるのは、成長ホルモンが働くからだと言われています。成長ホルモンが最も分泌されるのは、22時~3時です。

 眠りが深いのは、眠り始めの3時間と言われています。この3時間の眠りの深さが十分に深いと、「ぐっすり眠れた」という熟睡感を得られやすくなります。

 就寝前の室温は、少し低めの方が寝つきは良いと言われています。就寝1時間前から、エアコンで25℃~26℃に冷やし、その後は28℃に設定するなど工夫してみてください。

 

・「食事を摂ること」で、食べ物からも水分や塩分補給ができます。特に、作業前の朝食をきちんと摂ることを心がけてください。

 「疲労予防」として、ビタミンB1の多い豚肉、マグロ、きのこ類、海藻、大豆、大豆製品をしっかり摂ってください。ニンニクやネギ、玉ネギ、ニラと一緒に食べることで、よりビタミンB1の吸収率がアップします。

 「疲労回復」には、クエン酸が多く含まれているカボス、梅干し、キウイ、ミニトマトを積極的に摂ることで、胃腸の動きが良くなり、食欲が増します。

 「熱中症予防」としては、体に必要な電解質のカリウムが多く含まれている、バナナ、リンゴ、じゃがいも、サツマイモ、枝豆、大豆をお勧めします。

 また、乳製品には、アルブミンが含まれていて、造血作用があるので、汗をしっかりかくことができます。また、皮膚の表面からの熱放射量が増えるので、体温調整機能が上がります。

 時間がない時には、バナナ、納豆、ミニトマト、ヨーグルト、チーズがお勧めです。  

 

・本格的な暑さの到来前(5~6月)に、帰宅前に一駅歩く、ジョギングや自転車に乗ること等、1日30分程度を数日から2週間程度継続して実施しますと、体を暑さに慣れさせる(暑熱順化)ことができると言われています。

 運動が苦手という方で、特に、普段はシャワーだけで入浴をすまされている方は、2日に1回程度、ゆっくり、ぬるめの湯船に浸かり、じわーっと汗をかくことも非常に効果的です。体を「熱中症対応モード」にできますので、どうぞお試しください。

 ただし、長期休暇等でこれらの効果はゼロになるので気をつけてください。

 

・就寝前に「コップ一杯の水を飲む」こと、起床後は「作業開始前の水分補給(ウオーターローディング)」を行うことも大切です。

 「ウオーターローディング」とは、水分を体内に蓄えるための水分補給方法のことです。  喉が渇いてから水分を摂るのではなく、こまめに水分を摂り、汗を多くかく前に、体の中に水分がしっかり満たされている状態をつくることで、脱水を防ぐことが可能になります。  喉が渇いたら、すでに脱水状態と言われます。早め早めの水分補給がポイントになります。

 「コップ2杯以上(250~500ml)の水分を摂取」してから、出勤をすることを心がけましょう。

 

・「定期的な水分・塩分摂取」をしましょう。一般的なスポーツドリンクをコップ3杯飲むと、ご飯約1杯分のカロリー摂取になります。

 糖尿病や飲水量が2L/日になる人は、糖分を含まない水・麦茶かカロリーオフの水分が望ましいと思います。該当される方は、十分に気をつけてください。

 体重の3%の水分が失われる(脱水)と、血液濃度が上昇し、尿量が少なくなり、汗が出なくなります。

「色の濃い尿」が出る場合、「爪押し」で白かった爪の色がピンクに戻るのに3秒以上かかる時には、脱水を起こしている可能性があります。

 熱中症予備軍の「隠れ脱水症」を見つけるためのセルフチェックとしてお使いください。

 

 お仕事や作業の前後で、体重が1.5%減少していると、熱中症の危険生が高いので気をつけてください。

 例えば、体重60㎏の方が、59.1㎏に減少したら要注意です。

 作業をされる場合は、作業前と作業中、作業後の体重の変化にも気をつけてください。  

 

 職場での「暑さ指数(WBGT値〈湿球黒球温度〉)」は、熱中症を予防することを目的として、1954年にアメリカで提案された指標です。

 「暑さ指数」は、人体と外気との熱のやり取りに着目した指標で、影響の大きい①湿度、②日射・輻射など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標です。

 暑さ指数の値が、25℃未満は「注意」、25~28℃は「警戒」、28~31℃は「厳重警戒」、31℃以上は「危険」とされており、33℃を超えた場合は、環境省・気象庁を通じて、「熱中症警戒アラート」が発表されます。  

 「暑さ指数」の値が高い時には、単独での作業を控えて、必要に応じて作業を中止する、こまめに休憩をとる(15分~30分ごと)ことを心がけましょう。

 

  最近では、「プレクーリング」という冷水で手掌や足底を冷却する方法が、深部体温を効果的に低下し、より長時間の安全な連続での作業が可能になると立証されています。

 

 「ファン付きの作業服」については、暑さによる不快感や疲労感を軽減し、作業効率を改善できますが、深部体温を下げることはなく、熱中症の予防効果は限定的ですので、注意が必要です。

 

 みなさま方の職場でも、JIS規格「JIS B 7922」に適合した「暑さ指数計(WBGT指数計)」を準備して、毎日の仕事や作業時に活用することをお勧めします。

 

 最近では、「環境省」がLINEアプリを活用した「熱中症警戒アラート・暑さ指数の情報配信(無料)」をしています。 LINE公式アカウント「環境省」が開設されていますので、お使いのスマートフォンなどのLINEアプリで、LINE公式アカウントを友だち追加すると、この情報を受け取ることができますので、是非ご活用ください。  

 

 いかがだったでしょうか。  

 昨今の物価高で、電気代がかかるという理由で、気温が30℃を超える日に、保育室内のクーラー使用を控える、園児さんを外遊びに連れ出すことは、大変危険な行為です。

 適切なクーラーの使用や水分補給など、「熱中症に対する正しい予防法の知識」を十分に活かして、「保育所現場での正しい実践」を心がけ、この暑い夏を乗り切ってください。